現在進行中の大規模臨床試験(例:ペラカルセンのHORIZON試験)は「Lp(a)低下によって心筋梗塞や脳卒中などのASCVDイベントを本当に減らせるか」を検証しており、これらの結果が世界的に注目されていますwbck.tokyo。
2025年前後に順次結果が明らかになる見通しで、もし有効性が示され承認に至れば、動脈硬化予防のパラダイムシフトにつながる可能性がありますwbck.tokyo。
臨床現場では現時点で「Lp(a)を下げるべきか」明確でないものの、近い将来には治療標的となり得るため、今のうちから知識のアップデートが重要です。
本記事では、Lp(a)治療薬の承認に備えて、臨床検査技師として知っておくべきLp(a)の基礎知識と周辺情報、新薬の承認状況を解説します。
ぜひ、参考にしてください。
Lp(a)とは何か – 関連疾患と病態生理
Lp(a)(リポタンパク(a))は、LDLコレステロール粒子(いわゆる“悪玉”コレステロール)のアポB-100に、特殊なタンパク質であるアポリポタンパク(a)[apo(a)]がジスルフィド結合した構造を持つリポタンパクですj-athero.org。このapo(a)部分は血栓溶解因子プラスミノーゲンと非常に似た構造(クリングルドメインの繰り返し)を有しており、プラスミノーゲンと競合してその働きを阻害することで線溶系(血栓溶解)の妨げとなりますjhf.or.jp。その結果、Lp(a)は血液凝固・線溶系と脂質代謝の橋渡し的存在として作用し、動脈硬化を促進する因子と考えられていますtest-directory.srl.info。さらにLp(a)はLDLと同様にコレステロールを運搬しつつ、粒子上に酸化リン脂質を豊富に含むため強い炎症促進・動脈硬化促進作用を持つことも特徴ですwbck.tokyo。言い換えれば、Lp(a)は単なるLDL-Cとは異なるメカニズムで血管障害リスクを高める**「超悪玉コレステロール」**とも称されます。
関連疾患
血中Lp(a)高値は、従来の危険因子とは独立した心血管リスク因子として注目されており、高Lp(a)血症は冠動脈疾患(心筋梗塞・狭心症など)のリスク上昇と強く関連しますwbck.tokyoj-athero.org。また脳梗塞や末梢動脈疾患、さらには大動脈弁狭窄症との関連も報告されており(心臓弁へのコレステロール沈着や石灰化促進作用)、「動脈硬化性疾患全般の独立危険因子」として位置付けられますtest-directory.srl.infogoodrx.com。実際、Lp(a)濃度が高い患者では冠動脈ステント後の再狭窄が起こりやすいことも知られていますprimary-care.sysmex.co.jp。
Lp(a)の血中濃度は遺伝的要因の影響が非常に強く(約70~90%が遺伝子LPAによって規定)、人種差も認められますj-athero.org。例えばアフリカ系では白人やアジア系よりLp(a)値が高い傾向があり、全世界的には約20%の人が高Lp(a)血症(一般に50mg/dL超など)を有すると推定されていますamgen.com。一方で食事・運動など生活習慣の影響はわずかで、スタチンなど従来の脂質低下療法でもLp(a)は十分低下しませんamgen.com。
このように遺伝要因によって一生ほぼ一定なLp(a)ですが、高値の場合は動脈硬化リスクが累積的に上乗せされ、特に他のリスク因子を十分に治療していても残存リスクとして問題視されますprimary-care.sysmex.co.jp。そのため近年、従来のLDL-C管理でリスクが残る患者において一生に一度はLp(a)を測定しリスク評価に組み込むことが推奨され始めていますwbck.tokyo。
Lp(a)低下薬の最新動向(開発薬・治験状況・作用機序)
現在(2025年時点)、Lp(a)を標的とした低下療法は未だ承認品がなく、スタチンなど既存薬では十分な低下が得られませんgoodrx.com。しかし「最後の未治療領域」とも称されるLp(a)に対して近年革新的な新薬候補が続々と開発され、画期的な高容量低下が実現しつつありますwbck.tokyo。以下に主な開発中の薬剤と最新情報をまとめます。
ペラカルセン (Pelacarsen)
アンチセンス核酸医薬(ASO)による治療薬で、肝臓でapo(a)のmRNAに結合してその翻訳を阻害しますgoodrx.com。月1回皮下投与の自己注射製剤として開発されており、高用量(80mg)の投与でLp(a)値を約60~80%低下させた試験結果が報告されていますgoodrx.com。現在、ペラカルセンの大規模第3相試験(Lp(a)HORIZON試験)が進行中で、約8,000人規模でLp(a)低下による心血管イベント抑制効果を検証しており、2025年5月に主要結果が得られる予定ですgoodrx.com。この結果が良好なら承認申請につながる見込みです。また週1回のリポタンパクアフェレシス(血液からLp(a)を除去する治療)ニーズを減らせるか検証する試験も行われていますgoodrx.com。
オルパシラン (Olpasiran)
小干渉RNA(siRNA)医薬で、肝細胞内でRISC複合体を介しapo(a)のmRNAを分解することで作用しますgoodrx.com。AMG 890とも呼ばれ、3か月に1回皮下注射する長時間作用型製剤です。第2相試験では75mg以上の投与でLp(a)を95%以上低下させるという非常に強力な効果が示されましたgoodrx.com。現在第3相試験が進行中で、投与間隔の長さも相まって患者負担が少ない治療選択肢として期待されています。
ゼルラシラン (Zerlasiran)
Silence Therapeutics社のsiRNA医薬(開発コードSLN360)で、作用機序はオルパシランと同様ですgoodrx.com。第1相試験の単回投与ではLp(a)が最大98%低下する驚異的効果が報告されましたgoodrx.com。現在、第2相試験が完了しつつあり(2024年6月完了予定)、近々結果公表と第3相移行が見込まれますgoodrx.com。
レポジシラン (Lepodisiran, 開発コードLY3819469)
Eli Lilly社とNovo Nordisk社が開発するsiRNA医薬です。2022年に第1相試験を完了し安全性を確認、第2相試験が2024年10月まで実施予定となっていますgoodrx.com。今後順調なら第3相試験に進むと考えられ、開発名から正式名称への命名が予定されていますgoodrx.com。効果は他のsiRNAと同様に大幅なLp(a)低下が期待されています。
ムバラプリン (Muvalaplin)
画期的な経口低分子薬(小分子化合物)です。他の治療が注射なのに対し1日1回経口内服できる点でユニークですgoodrx.com。作用機序はapo(a)のクリングルIVドメインに直接結合し、apo(a)とapoB-100の結合=すなわちLp(a)粒子形成そのものを阻害するというものですlab-brains.as-1.co.jp。創薬研究の結果、apo(a)の複数のドメインに結合して強力に形成を抑制する化合物としてLY3473329(ムバラプリン)が開発されましたlab-brains.as-1.co.jp。第1相試験は既に終了し、健康成人114名で急性の有害事象なくLp(a)を約65%低下させることに成功していますlab-brains.as-1.co.jp。現在、第2相試験(KRAKEN試験)が開始されており、2024年初頭までに結果が得られる計画ですgoodrx.com。効果量では注射製剤に若干劣るものの、経口薬ならではの利便性から将来の併用療法や広範な適用も期待されています。
その他のアプローチ・既存薬
過去から知られているナイアシン(ニコチン酸誘導体)やエストロゲン製剤には中程度のLp(a)低下作用がありますが、副作用やリスクのため現在は一般的に推奨されていませんj-athero.orggoodrx.com。一方、PCSK9阻害薬(エボロクマブ等)はLDL-C低下薬ですが副次的にLp(a)を約20~30%低下させることが報告され、難治性高Lp(a)血症の患者にoff-label(適応外使用)で用いられる場合がありますgoodrx.com。また日本では選択的LDLアフェレシス療法が重症家族性高コレステロール血症(FH)患者向けに保険適用されていますが、米国では極端な高Lp(a)血症に対して週1回のリポ蛋白アフェレシスがFDA承認されていますgoodrx.com。アフェレシスはLp(a)を直接除去できる即効性の治療ですが、侵襲やコストの問題から一般患者には現実的でないため、新薬開発への期待が高まっています。
Lp(a)測定に関する診療報酬点数と保険適用条件
Lp(a)血中濃度の測定は、日本では生化学検査項目として保険収載されています。測定法はラテックス凝集免疫比濁法や免疫比濁法が用いられ、検体検査実施料は107点に設定されていますprimary-care.sysmex.co.jp。単独で算定する場合の点数であり、他の生化学項目と同時に測定した場合は包括点数による算定となります。また、保険請求上の制限として「リポ蛋白(a)検査は3か月に1回を限度」と定められていますprimary-care.sysmex.co.jp。同一患者に短期間で繰り返し測定することは原則認められず、請求時には前回実施日をレセプト摘要欄に記載する必要がありますprimary-care.sysmex.co.jp。もっともLp(a)値は遺伝的に規定され大きく変動しないため、通常は生涯一度の測定でも十分参考になりますwbck.tokyo。保険上も定期的なフォロー目的での反復測定は想定されていないことに留意が必要です。
保険適用の条件や臨床上の位置づけ
Lp(a)測定は主に動脈硬化性疾患のリスク評価目的で行われます。そのため、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞など)や脳梗塞、末梢動脈疾患の既往者・疑い例、あるいは脂質異常症(高コレステロール血症)や糖尿病、慢性腎臓病など動脈硬化リスクの高い疾患を有する患者で適応となるケースが多いですtest-directory.srl.info。特に家族性高コレステロール血症(FH)ではLp(a)高値の頻度が高いため、FH疑い例で測定が推奨されますprimary-care.sysmex.co.jp。一方、健診目的の網羅的測定や明らかなリスクがない場合の測定は保険上認められない可能性があります。実施にあたっては担当医が動脈硬化リスク評価の必要性を認めた場合にオーダーすることが重要です。臨床検査技師としては、これら保険適用の背景を理解し、医師に「この患者は測定適応があります」と提案できる知識を備えておくと良いでしょう。
診療報酬豆知識
Lp(a)検査に限らず、生化学検査は入院初回や救急時にまとめて測定すると包括点数(5項目93点など)になりますprimary-care.sysmex.co.jp。しかしLp(a)は特殊検査の部類に入るため、緊急時には測定できないこともあります。また、測定には数日かかるラボもあるため、迅速性が要求される状況では保険適用であっても臨床的意義を考慮する必要があります。いずれにせよ3か月に1回までという制限がある以上、本当に必要なタイミングで有効活用することが大切です。
Lp(a)に関心を持つ診療科と患者ニーズの現状
Lp(a)が関係する主な臨床領域としては、心血管系疾患を扱う循環器内科が筆頭に挙げられます。冠動脈疾患や大動脈弁疾患にLp(a)が関与するため、循環器専門医は高Lp(a)血症の残余リスクに高い関心を示しています。また脂質管理を専門とする内分泌代謝科・脂質異常症外来でも、難治性の高コレステロール血症やFH患者においてLp(a)測定・対策が議論されています。事実、日本動脈硬化学会も「Lp(a) 30 mg/dL超の場合は冠動脈疾患ハイリスクとみなし、他の危険因子を厳格管理すべき」とするQ&Aを公表しておりj-athero.org、循環器や代謝科のガイドラインにおいて徐々にLp(a)の位置づけが明確化されています。
その他、脳神経内科(脳卒中)領域でもLp(a)高値がアテローム性脳梗塞のリスク因子として注目されますtest-directory.srl.info。特に原因不明の若年性脳梗塞では、高Lp(a)が隠れた要因の可能性があり、神経内科医が測定を依頼するケースもあります。また腎臓内科では、慢性腎不全そのものがLp(a)を上昇させうること、腎疾患患者は動脈硬化リスクが高いことから、リスク評価の一環でLp(a)を測定することがありますtest-directory.srl.info。糖尿病内科(代謝科を含む)でも同様に、高血糖による動脈硬化リスク層別化のためLp(a)測定に関心を払っていますtest-directory.srl.info。このように循環器を中心に内科各分野でLp(a)は横断的に関連する指標です。
患者数やニーズの見込み
高Lp(a)血症の有病率は決して低くありません。世界的には人口の20~30%が何らかの基準で高Lp(a)と推定されamgen.comhealth.ucdavis.edu、日本人でも一定割合が該当すると考えられます。例えば臨床検査会社SRLの資料では、適応疾患を有する患者では約5人に1人が高Lp(a)を示すとも報告されています(社内データ)。実際、脂質異常症患者や家族性心血管疾患の家系ではLp(a)測定で高値が見つかることが珍しくありません。にもかかわらず、現在Lp(a)は「医師にも見逃されがちな静かな脅威」と呼ばれる状況ですamgen.com。ある調査では心臓専門医ですらLp(a)を日常的に測定していないケースが多いことが示唆されましたamgen.com。これは従来有効な治療法が無かったことや認知不足によるものですが、新薬開発が進む今、潜在ニーズが一気に顕在化する可能性があります。
検査室から臨床へ – 効果的なアプローチ提案とプレゼンス向上策
臨床検査技師として、Lp(a)に関する最新知見を臨床側と共通認識し、検査室の測定体制を整えている旨をアピールすることは自施設の医療レベル向上にも繋がります。
Lp(a)の測定試薬は積水メディカルが汎用機用試薬として既に販売しています。積水メディカルは脂質領域に強みを持つこともあり、Lp(a)試薬の基本性能は良好です。新薬の登場に伴い需要が急増することが見込まれます。自施設装置へのセットアップだけでも早めに済ませておくことで、臨床からのニーズに迅速に応えることができるでしょう。
まとめ
今後、高Lp(a)血症に対する治療薬が実用化されれば、該当患者数は相当な規模に上ると見込まれます。臨床現場では「とりあえず測っておこう」という動きが加速し、循環器クリニック等でのLp(a)検査オーダー件数増加が予想されます。
従って臨床検査技師としても、その波に備えて知識を深め、どの診療科にも横断的に情報提供できる体制を整えておきましょう。