はじめに
検査機器の新規導入や検査試薬の変更時には検査手順の客観的証拠を入手、つまり”バリデーション”を確認する必要があります。
5.5.1.3 検査手順の妥当性確認(Validation of examination procedure)
【注記(検査の性能特性についての記述)】
検査の性能特性には、測定の真度、測定の精密さ、測定の並行精度
及び中間精度を含む測定の精密度、測定不確かさ、分析特異性、干
渉物質を含む分析感度、検出限界、測定範囲、診断特性、及び診断
感度の事項の考慮が含まれることが望ましい。ISO15189 日本語訳より引用改変
日本臨床化学会から出された定量測定法に関するバリデーション指針では、下記と表記があります。
この表によるとメーカーもユーザーも、ほぼ全ての項目の実施が求められています。
しかし、必ずしも全ての項目で該当する訳ではありません。
臨床検査分析系には国際標準化(Standadization)と調和化(Harninization)という言葉があります。
免疫測定法の場合、以下の要因により実施できる基礎検討内容にも限界があります。
- 標準物質は一部の項目しかないこと
- 基準測定法がない(各社測定原理が異なる)こと
- 人工試料と人血清の反応性が大きく異なること
そのため、免疫測定法の場合は
- 設置環境に由来すること(空調、水質、設置条件など)
- 施設特有の出検検体傾向(専門領域診療、高齢者、小児、透析など)
これらの検証を重点的に実施して、基礎検討内容についてはメーカーのデータを持って確認・検証するようにすべきです。
【LoB,LoD,LoQ≠定量限界・検出限界】Loxの概念と算出方法について
LoX設定の背景
これまでは、下記図のように各試薬メーカーで測定感度の設定方法が異なっており、添付文書で性能を比較することが困難でした。
そのため、国際標準化を前提として、JSCCより2006年に「定量分析法における検出限界および定量限界の評価法」が発表されました。
LoXの定義
LoB(Limit of blank):ブランク試料の多重測定から算出
- 分析対象物質を含まない、あるいは無視できる濃度である試料の測定値分布において、無いものを有るとする誤りのあらかじめ定めた確率αに対応する値。
- ないものをあるとしない上限値。
LoD(Limit of detection):低濃度試料の多重測定から算出
- 分析対象物質が、定量的ではないが、有るということが高い信頼度でいえる最低の値
- ≒最低検出限界、最小検出濃度
LoQ(Limit of quantitation):低濃度試料の多重測定から算出
- 分析対象物質が許容される精密さで定量的に測定できる最低の値=実効感度(Precision Profile)
- LoQ=各試料の平均値を横軸にCVを縦軸にプロットし回帰式をもとめCV=7%、10%、20%で設定(※CVの規定は設定されてはいない)
LoB(Limit of blank)
分析対象物質を含まない、あるいは無視できる濃度である試料の測定値分布において、無いものを有るとする誤りのあらかじめ定めた確率αに対応する値。
ブランク試料とは?
NCCLS Document EP17-Aにおけるブランク試料とは「測定成分を含まない被検試料」とされています。
ブランク試料に要求される特性
- 測定成分を含んでいないか、無視し得るほど低濃度であること
- 被検検体と同等のマトリックスを有していること
- PH、粘度、比重等の物理化学的性状が被検試料と同等であること
- 反応を阻害するような物質を含んでいないこと
- 低値血清から、吸着材やアフィニティクロマトグラフィなどで測定対象物質を取り除くのが効果的)
厳密に言うと生化学の生理食塩水は、ブランク試料ではありません!!
測定法は?
- 各試料を5日以上に分けて反復測定。
- 少なくとも総数60回の測定が望ましい。
計算式は?
- LoB=MB+ZαSDB
- 全試料の総平均値+1.645×合成標準偏差
合成標準偏差?
K個のブランク試料を測定し、第i番目の試料をni回反復測定して求めた標準偏差をSDiとするとそれらをプールして次式により合成標準偏差を求める。
- 合成標準偏差=(SUM(SD^2)×(count-1))/(全データ数‐試料数)の平方根
- Excelだと:合成標準偏差=SQRT((SUM((SD^2)×(count-1)))/(全データ数-試料数))
LoD(Limit of detection)
分析対象物質が、定量的ではないが、有るということが高い信頼度でいえる最低の値≒最低検出限界、最小検出濃度。
低濃度試料とは?
- 患者試料のうち当該物質の濃度が、想定されるLoDに近いものを用いる。
- またはプール血清から測定対象物質を吸着材やアフィニティクロマトグラフィなどで部分的に除去する。
測定法は?
- 各試料を5日以上に分けて反復測定し、それらの測定値をプールしてゆく。
- 少なくとも全試料合わせて、総数60回の測定が望ましい。
計算式は?
LoD=LoB+CβSDS(LoB+1.645×用いた試料の標準偏差の平均 )
∴LoBが得れないとLoDは取得できません!!
LoQ(Limit of quantitation)
低濃度試料とは?
- 患者試料のうち当該物質の濃度が、想定されるLoQに近い濃度の試料を複数用意する。
- もしそれが得られない場合は、ブランク試料を作成し、それに当該物質の標品を一定量添加して適当な試料を作成する。
測定法は?
- LoQ値前後の試料を一定数(各5回程度)反復測定し、各試料の平均値を横軸に、CVを縦軸にプロットし、回帰式(2次、3次関数または指数関数)で回帰し、その曲線が誤差許容限界値のレベルでX軸に平行に引いた線と交わる点の濃度をLOQとする。
- これにより無駄な反復測定を避けることができる。
計算式は?
回帰式をもとめCV=7%、10%、20%で設定。(CVの規定は設定されてはいない)
まとめ
今回は、LoXについての解説、算出方法についてお伝えしました。
ご紹介したように、測定結果から算出するためにはなかなか複雑な計算式を組む必要があります。
日本臨床化学会のクオリティマネジメント専門委員会から公表されているバリデーション算出用プログラム(無料)を使用すれば、測定結果をシートに入力するだけでLoXを算出できるので、非常におすすめです。
ぜひ、活用してみてください。
以上、参考になれば幸いです。
それでは、また!