技師のキャリア

【辞めてよかった】臨床検査技師の将来性の闇〜3つの残酷な真実〜

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臨床検査技師は診断・治療に必要不可欠な検査データを扱う医療機関の縁の下の力持ち的な存在です。表に出ることは少ないため知名度が低い職種ですが、医療機関に無くてはならない存在です。

しかし、少子高齢化や人口減少に直面し社会は大きく変わっています。また、技術革新においても検査システム・検査機器の急速な進歩に伴い、臨床検査技師という職種は変革を求められています。

本記事では、臨床検査技師と関係が深い臨床検査業界の動向を解説した後、今後の検査技師に求められる要件を紹介します。

これからの臨床検査技師はテクノロジストではなくサイエンティストとしての要件が求められていきます。

臨床検査技師として今後キャリアを伸ばしていきたい方は、ぜひ参考にしてください。

この記事を書いた人

Sドラゴン

■転職経験を5回もつ臨床検査技師。新卒で臨床検査業務に従事した後、胚培養士、CRC、アプリケーションスペシャリスト、研究開発、検査サービス市場投入、衛生検査所管理者を経験。
■臨床検査技師が直面する転職の課題に対して、豊富な転職経験と現場で培った専門知識を活かし、実績と経験に基づいた実行可能なキャリアアドバイスを提供します。

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臨床検査業界の将来性

臨床検査技師を目指している方、臨床検査技師として働いている方にとって臨床検査業界の今後の動向は必ず把握しておくべきです。

ここでは、客観的なデータに基づいて臨床検査業界が今後どのように推移していくのかを解説していきます。

日本の体外診断用医薬品市場の現状

日本における体外診断用医薬品市場は、高齢化社会の進行と共に拡大しています。

出典:臨床検査薬等の売上金額|日本臨床検査薬協会

2021年、2022年は新型コロナウイルスのパンデミックの影響で診断薬業界の売上高が大きく伸びました。高度な医療技術の発展と疾病の早期発見・早期治療のニーズが高まる中、IVD市場は重要性を増しています。

その他、政府の健康政策や医療制度の変化も市場動向に影響を与えています。

日本の体外診断用医薬品市場の今後の見通し

IVD市場を牽引する製品の変化

現在、感染症やがん、生活習慣病関連の検査薬が市場を牽引しており、これらの分野での技術革新が進んでいます。

将来的には、個別化医療の進展に伴い、遺伝子検査薬の需要が増加すると予測されています。また、AIやデータ解析技術の発展が、より精密で迅速な診断に貢献し、市場のさらなる成長を促進することが期待されます。

一方で、医療費抑制の圧力や規制の厳格化が市場の成長を阻害する可能性もあります。

2050年を境に検査市場はシュリンクの方向に向かう

下表は、日本の年齢別人口推移と高齢化率を表しています。

高齢化率というのは、人口に占める65歳以上の割合のことです。日本の場合、人口減少はすでに始まっているものの高齢者の絶対数は2050年頃まで横ばいと予測されており、IVD市場は2050年頃までは緩やかに成長していく見立てです。

2050年を過ぎると高齢者の絶対数の低下に伴い日本国内のIVD市場も縮小していくと予測します。

世界の体外診断用医薬品の今後の見通し

一方、世界のIVD市場では、特に発展途上国での医療アクセス向上が市場成長の大きなドライバーとなっており、2021年から2028年の予測期間に市場成長が見込まれています。

出典:Global Immuno In-Vitro Diagnostics (IVD) Market – Industry Trends and Forecast to 2028|DATA BRIDGE

Data Bridge Market Research社は、同市場は2028年までに239.7億米ドルを占め、上記予測期間のCAGRは4.78%で成長すると分析しています。

世界の高齢者人口の増加と慢性病や感染症の罹患率の増加がIVD市場の成長と需要を強化する重要なファクターです。

さらに、新興国市場での自動分析装置およびPOC機器の普及と高齢者人口の増加も、2021年から2028年のグローバルな体外診断用医薬品市場の成長を加速させる要因と考えられています。

その他、疾病診断に関する意識の高まりと大手IVDメーカーによる新しいIVD製品の開発に向けた研究開発投資の増加や微量検体・迅速検査に寄与する自動分析装置の拡大もIVD市場を成長させる要因といえるでしょう。

また、昨今の新型コロナウイルス流行のような国際的なパンデミックは、体外診断用医薬品の重要性を世界的に認識させ、一過性の市場拡大に寄与しています。

臨床検査技師の将来性

臨床検査技師を取り巻く環境や国内の医療情勢から、臨床検査技師という職種が今後どのようになるのかを解説します。

臨床検査技師の飽和に伴う価値低下

医療機関の減少と国家試験合格者の微増という二つの要因が、臨床検査技師の価値低下を招いています。

国家試験合格者の推移

まずは供給について。

画像出典:日本医師薬研修協会

臨床検査技師国家資格の合格者数(青色棒グラフ)の推移を見てみると、少子化と言いながら合格者数は微増していることがわかります。

医療職で安定していること、新型コロナのパンデミックで職種の知名度が上昇したことなどが要因として考えられます。

医療機関の減少

日本の医療機関は少子高齢化や地方都市の人口減少などの影響を受けて、減少の一途をたどっています。

画像出典:コロナ禍、病床数の確保できなくて当たり前? 医療ひっ迫でも病院数・病床数は大きく減少していた!(鷲尾香一)

上のグラフは一般病院数の推移を表していますが、2010年に7,587件だった一般病院数は、2019年までの10年間で341も減少し、7,246件となっています。

特に地方の小規模病院や診療所の閉鎖が相次いでおり、これにより医療従事者の働き口が減少しています。

この背景には、人口減少と高齢化が進む中で、人口減少により救急救命や集中治療といった「急性期」の病床が余剰となる一方で、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者仲間入りを迎える問題(2025年問題)に対し、病床を削減して限りある医療費や医療資源(医師の数や負担など)を有効活用しようという国の方針が考えれます。

また、病院側にとっても、多くの病床を抱えていても高水準の病床稼働率を維持できない限り経営が困難な点も病院数が減少する要因の1つでしょう。

こうした国の方針により、一般病院が減少しそれと共に病床数が減少。一方で、一般診療所は無床の診療所が増加する半面、病床が減少する傾向が続いています。

Sドラゴン
Sドラゴン

余っているということは賃金を引き上げなくても人が集まるため、臨床検査技師は賃上げ対象になりにくいです。

タスクシフト・ISO関連による業務量の増加

近年、医療現場における業務の効率化や品質向上のために、タスクシフトやISO(国際標準化機構)関連の規定が導入されています。これにより、臨床検査技師の業務量が増加し、多岐にわたる責任が求められるようになっています。

タスクシフト

タスクシフトとは、特定の職種に集中している業務を他の職種に分散させることで、全体の業務効率を向上させる取り組みです。医療現場では、医師や看護師の業務負担を軽減するために、臨床検査技師や他の医療職種に一部の業務がシフトされることが一般的です。

タスクシフトの一環として、臨床検査技師は従来の検査業務に加えて、以下のような追加業務を担うことが増えています。

  • 採血業務: 本来は看護師が担当することが多かった採血業務が、臨床検査技師にシフトされるケースが増えています。
  • 患者対応: 患者への検査説明や結果のフィードバックなど、直接的な患者対応業務も増加しています。
  • データ管理: 検査データの管理や解析、報告書の作成など、データ関連の業務も重要な役割を担うようになっています。

ISO関連業務

ISO(国際標準化機構)は、世界共通の基準を制定する組織であり、医療分野では品質管理や安全性向上のための規格が多く導入されています。特に、ISO 15189は医療検査室の品質と能力に関する基準であり、大学病院や機関病院など多くの臨床検査室が認証を取得しています。

ISO 15189の認証取得と維持には、厳密な品質管理と文書管理が求められ、臨床検査技師の業務量が増加します。

具体的には以下のような業務が追加されます。

  • 品質管理業務: 検査の精度管理や機器の校正、試薬の管理など、品質を維持するための業務が増加します。
  • 文書管理: 手順書や記録の作成・更新、定期的な内部監査など、文書管理業務が多岐にわたります。
  • 継続的改善: ISOの要求事項として、継続的な業務改善が求められ、そのためのデータ収集や分析、改善策の実施が必要です。
Sドラゴン
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タスクシフトとISO関連の取り組みにより、臨床検査技師の業務量は確実に増加しています。

医療機関の経営はより厳しくなる

日本の医療機関は、右肩上がりの医療費、健康保険料の増加、診療報酬のマイナス改定といった要因から、経営がますます厳しくなっています。

出典:GemMed

医療費の増加は高齢化と医療技術の進歩によるもので、医療機関の財政負担を増大させます。これに伴い健康保険料も上昇し、手元に残る給料はさらに低くなります。

この背景から政府の医療費抑制政策により、診療報酬のマイナス改定が続いています。「診療報酬を上げると国民負担率が上昇して国民が困るので医療費は下げよう」という論理構成に基づきますが、これは即ち医療機関の収益は減少するということです。

Sドラゴン
Sドラゴン

つまり、医療従事者の賃上げは非常に厳しいということです。

臨床検査技師をはじめとした医療従事者は知識も技術も経験も必要な仕事なのに、診療報酬の元で動いている病院経営・国の制度が変わらない限り給料が上がることはありません。

これからの臨床検査技師に求められる要件

これから臨床検査技師としてキャリアを伸ばすには、どのような要件が必要になるのかを解説します。

検査室の外に活躍の場を広げる

臨床検査技師は従来の検査室での業務にとどまらず、以下のようなさまざまな分野での活躍が期待されます。

  • チーム医療:他の医療専門職と協力して患者ケアを最適化することが求められます。臨床検査技師の専門知識を活かし、医師や看護師と連携して診断や治療の精度を向上させる役割を果たします。
  • 介護・福祉:高齢化社会に伴い、介護施設や福祉施設での検査業務が重要になります。現場での迅速な検査や健康状態のモニタリングが求められます。
  • 事務職:医療機関の運営や管理に関わる事務業務も増加しています。検査データの管理や分析、品質管理など、運営業務にも対応できるスキルが必要です。

運営能力を有したエキスパートになる

これからの臨床検査技師には専門知識だけでなく、病院運営能力も求められます。

  • プロジェクト管理:検査プロジェクトの計画・実行・評価を効果的に行う能力が必要です。
  • 品質管理:検査の精度と信頼性を確保するための品質管理手法を理解し、実践する能力が求められます。
  • リーダーシップ:チームを統率し、効率的な業務運営を実現するリーダーシップ能力が重要です。

検査に責任を持つ・厳正な結果報告

臨床検査技師は常に正確で信頼性のある検査結果を提供する責任があります。

  • 正確な検査:検査手順を遵守し、誤差を最小限に抑えるための技術と知識が必要です。
  • 厳正な結果報告:検査結果を迅速かつ正確に報告することが求められます。結果の解釈や報告の正確性が、診断や治療の質に直結するため、細心の注意を払う必要があります。

これらの要件を満たすためには、臨床検査技師としての専門知識を深めるとともに、コミュニケーション能力や運営能力を高めることが重要です。

また、継続的な教育や自己研鑽を通じて、最新の知識と技術を習得することが求められます。

まとめ

チーム医療が叫ばれて久しいですが、臨床検査技師が医療の中で十分に評価・認知されていないことは非常に残念なことです。

検査にプライドを持って取り組むことは本職種のプレゼンスを高めるための土台に過ぎず、検査室の外に出て声を上げる活動こそ、臨床検査技師の院内での評価を高めることに繋がります。

そのためにも、診療の中で検査だけに留まらず、他職種の業務の前後や隣接・連続する業務まで把握することが診療効率に繋がり、医療の質や患者さんの安全に繋がると思います。

臨床検査技師にとっては業務拡大となりますが、これらを達成できる人材が臨床検査技師としてキャリアを飛躍できるでしょう。

ABOUT ME
Sドラゴン
経歴:臨床検査技師(天理よろづ相談所病院)→胚培養士(不妊クリニック)→CRC(EP総合)→ASP(ロシュ)→研究開発・細胞培養(バイオベンチャー) 保有資格:臨床検査技師免許 、緊急臨床検査士 、二級臨床検査士(臨床化学/免疫血清学)