病院がクラウドファンディングで資金を集める。
これを聞いて、違和感を覚える人もいると思います。
「医療って税金や保険料で支えられているのでは?」
「病院が寄付を募らないと設備更新できないの?」
「クラファンに頼るのは経営として大丈夫なの?」
この感覚はかなり自然です。
ただ、現実を見ると、病院のクラウドファンディングはすでに一部の特殊な取り組みではなくなっています。
READYFORでは、医療機関によるクラウドファンディングの公開件数が200件を突破し、累計支援額は約30億円に到達しています。2024年だけでも51件の医療機関プロジェクトが公開され、約9億2,500万円の支援が集まったと公表されています。
結論から言えば、病院のクラウドファンディングは「万能な資金調達手段」ではありません。
しかし、医療機器の更新、救急車両の整備、災害対応、病棟改修など、地域医療を守るための資金を集める手段としては、かなり現実的な選択肢になりつつあります。
なぜ病院がクラウドファンディングをするのか
背景にあるのは、病院経営の厳しさです。
医療機関は、一般企業のように自由に価格を上げることができません。診療報酬という公定価格の中で運営されているため、電気代、材料費、人件費、医療機器の保守費が上がっても、その分をすぐに患者へ価格転嫁することが難しい構造です。
帝国データバンクの調査でも、2025年の医療機関の倒産は66件、休廃業・解散は823件となり、いずれも過去最多を更新しています。背景として、物価高や賃上げによる経営悪化、医療機器・メンテナンス費、食材費、光熱費、人材採用費などのコスト上昇が指摘されています。
つまり、病院のクラウドファンディングは単なる「美談」ではありません。
医療インフラの維持費が、診療報酬だけでは追いつきにくくなっている現実の表れです。
実際にどんな病院がクラウドファンディングをしているのか
病院クラウドファンディングの資金使途として多いのは、医療機器の購入、救急車両の購入・更新、施設改修、地域福祉活動、災害関連、教育・研究、運営費支援などです。
特に2024年は、MRIなどの診断機器、手術支援ロボットなどの治療機器、救急車やドクターカーの整備が目立ったとされています。待合室や病棟のリニューアルなど、患者体験を改善する施設改修も増えています。
代表的な事例として、石川県七尾市の恵寿総合病院は、能登半島地震を受けたプロジェクトで1億954万7,000円を集め、全国2,496人から支援を受けました。READYFORによると、これは医療機関関連プロジェクトで史上最高額とされています。
他にも、留萌市立病院の心臓カテーテルシステム更新では1,693万6,000円、ツカザキ病院の救急車更新では1,291万2,115円、聖マリアンナ医科大学病院の待合環境改善では3,803万8,694円の支援が集まっています。
ここから見えるのは、単に「病院が困っています」だけではなく、
・地域の救急を守る
・災害時にも医療を止めない
・老朽化した設備を更新する
・患者の療養環境を改善する
といった、支援者が具体的にイメージしやすいテーマほど支援が集まりやすいということです。
クラウドファンディングは無料ではない
注意すべきなのは、クラウドファンディングは集まった金額がそのまま病院に入るわけではないという点です。
READYFORのベーシックプランでは、手数料は14%、内訳は運営手数料9%、決済手数料5%で、これに税がかかります。プロジェクト掲載自体は無料で、目標金額を達成して支援金を受け取る場合に手数料が発生します。
たとえば1,000万円集まった場合、14%に消費税を加えると、実質的な手数料負担はおおよそ154万円です。手元に残るのは約846万円になります。
CAMPFIREの場合、通常のCAMPFIREでは利用手数料12%、決済手数料5%で、合計17%に消費税がかかります。CAMPFIRE for Social Goodでは、一定条件下でプロジェクトオーナー側の手数料負担が発生しない仕組みもあります。
Makuakeでは、プロジェクト実施における手数料は集まった金額の税抜20%、税込22%で、決済手数料込みとされています。掲載や相談自体は無料ですが、広告出稿やページ制作代行などを希望する場合は別途費用がかかることがあります。
つまり、クラウドファンディングをするなら、最初から手数料を差し引いた実質手取り額で資金計画を立てる必要があります。
「1,000万円必要だから1,000万円を目標にする」では足りません。
手数料、返礼品の原価、送料、広報費、ページ制作費、人件費まで考えると、実際には必要額より高めに目標設定するか、資金使途を段階的に設計する必要があります。
All-or-NothingとAll-Inの違いも重要
クラウドファンディングには、主にAll-or-Nothing型とAll-In型があります。
All-or-Nothing型は、目標金額を達成した場合だけ支援金を受け取れる方式です。未達の場合、支援金は受け取れず、支援者に返金されます。
一方、All-In型は、目標金額に届かなくても、1円以上の支援があれば支援金を受け取れる方式です。READYFORでは、All-In型を利用するには承認が必要で、税制上の寄付金控除の対象団体や上場企業などが条件として示されています。また、目標未達でもプロジェクト実行やリターン提供に支障がないことが求められます。
病院の場合、All-In型の方が一見よさそうに見えます。
しかし、注意点もあります。
目標金額に大きく届かなかった場合でも、掲げた内容をどう実行するのかを説明しなければなりません。医療機器の購入のように、必要額に届かなければ実行できないテーマでAll-Inを選ぶと、支援者との信頼関係を損なう可能性があります。
そのため、医療機器購入など金額が明確なプロジェクトではAll-or-Nothing型、病棟改修や環境整備など支援額に応じて段階的に実行できるものではAll-In型が向いている場合があります。
病院クラウドファンディングのメリット
病院がクラウドファンディングを行うメリットは、資金調達だけではありません。
むしろ、資金調達以外の価値も大きいです。
1つ目は、地域住民に病院の課題を知ってもらえることです。
普段、地域住民は病院の経営状況や設備更新の必要性を知る機会がほとんどありません。救急車、CT、MRI、手術室、検査機器、病棟設備は、あるのが当たり前だと思われがちです。
しかし実際には、これらの維持には多額の費用がかかります。
クラウドファンディングは、その現実を地域に説明する機会になります。
2つ目は、病院と地域の関係づくりです。
READYFORの調査では、医療機関側がクラウドファンディングについて「広報・地域住民の巻き込みに利点がある」と認識している割合が約7割とされています。
これは重要です。
病院のクラウドファンディングは、お金を集めるだけではなく、「この病院を地域で支える」という意識を作る装置にもなります。
3つ目は、職員のモチベーションです。
支援者からの応援コメントは、医療従事者にとってかなり大きい意味を持ちます。医療現場は、患者からのクレームや行政対応、業務負荷にさらされやすい一方で、地域から直接感謝を受け取る機会は多くありません。
支援コメントは、現場にとって「自分たちの仕事は地域から必要とされている」と実感できる材料になります。
一方で、クラウドファンディングには限界もある
ただし、病院のクラウドファンディングを過剰に美化するのは危険です。
最大の問題は、本来は制度的に支えるべき医療インフラを、寄付に頼る構造になってしまうことです。
救急車、医療機器、病棟改修、災害対応設備。
これらは本来、安定的な診療報酬、補助金、自治体予算、病院経営の中で計画的に整備されるべきものです。
クラウドファンディングで一時的に資金が集まったとしても、次の更新費、保守費、人件費、消耗品費までは継続的に賄えません。
たとえば医療機器は、購入して終わりではありません。
保守契約、消耗品、点検、修理、更新、人員配置が必要です。検査機器であれば、試薬、精度管理、キャリブレーション、トラブル対応、メーカー保守も含めて初めて運用できます。
つまり、クラウドファンディングは「買うお金」にはなっても、「運用し続けるお金」にはなりにくい。
ここを誤ると、単発の話題づくりで終わります。
成功する病院クラウドファンディングの条件
病院のクラウドファンディングで重要なのは、支援者にとって意味が明確であることです。
単に「病院経営が厳しいので助けてください」では弱いです。
支援者が知りたいのは、次の4つです。
・なぜ今必要なのか
・誰のためになるのか
・いくら必要なのか
・支援によって何が変わるのか
たとえば、
「救急車を更新します」
よりも、
「高齢化で救急搬送が増える地域で、転院搬送や救急対応を維持するために救急車を更新します」
の方が伝わります。
「医療機器を買います」
よりも、
「心臓カテーテル治療を地域で続けるために、老朽化したシステムを更新します」
の方が支援する理由が明確になります。
病院側の都合ではなく、地域住民や患者にとっての変化を言語化できるかどうか。
ここが成否を分けます。
病院のクラウドファンディングはアリなのか
結論、病院の資金調達としてクラウドファンディングは「あり」です。
ただし、あくまで補完策です。
診療報酬や公的補助を代替するものではありません。
クラウドファンディングで向いているのは、地域住民に意義が伝わりやすく、支援後の変化が見えやすいテーマです。
たとえば、
・救急車、ドクターカーの更新
・災害医療体制の整備
・小児医療、周産期医療、救急医療の支援
・患者の療養環境改善
・地域に不足する医療機能の維持
・病院の象徴的な設備更新
こうしたテーマは、支援者が「自分や家族にも関係がある」と感じやすい。
一方で、慢性的な赤字補填や通常運営費の穴埋めをクラウドファンディングで行う場合は注意が必要です。
なぜなら、それは一時的に資金が集まっても、構造的な問題の解決にはならないからです。
クラウドファンディング主要サービス比較表
| 選択肢 | 実行者側の手数料目安 | 支援者側の追加負担 | 向いている用途 | 病院クラファンとの相性 | 注意点 |
| READYFOR | ベーシックプラン:14%+税 内訳:運営手数料9%/決済手数料5% | 原則、支援金額に含まれる設計 | 医療・福祉・研究・災害支援・地域課題 | かなり高い | 医療機関案件の実績が多い。一方で、手数料控除後の手取り額で目標設定する必要がある。サポートプランは別途確認が必要。 |
| CAMPFIRE | 17%+税 内訳:利用手数料12%/決済手数料5% | 原則、支援金額に含まれる設計 | 個人・店舗・地域活動・商品・イベントなど幅広い | 中〜高 | 認知度は高いが、通常プランでは実行者負担がREADYFORより重め。All-or-Nothing達成時、またはAll-inで1円以上集まった場合に手数料が発生する。 |
| CAMPFIRE for Social Good | 実行者負担なし | 利用手数料7%+決済手数料5%を支援者が協力費として負担 | 社会課題、福祉、医療、NPO、公益性の高い活動 | 高い | 実行者の手取りは大きいが、支援者側に手数料負担が見える。支援時の心理的ハードルが上がる可能性はある。 |
| For Good | 掲載手数料は0円 | 決済手数料5%税込+システム利用料220円税込 | 社会貢献、福祉、医療、地域課題、災害支援 | 高い | All-in方式が基本。支援者負担型のため、実行者は支援金を全額受け取りやすい。一方で、大規模医療機関案件の知名度・実績はREADYFORほど強く見えにくい。 |
| Makuake | 20%+税 決済手数料込み | 原則、支援金額に含まれる設計 | 新商品、D2C、メーカー、体験型サービス | 低〜中 | 医療機器更新や病院支援より、「新商品を応援購入してもらう」文脈が強い。病院の寄付型・公益型クラファンとはややズレる。 |
| MotionGallery | コンセプト型:手数料5%+決済手数料5% プロダクション型:達成時10%、未達時20% | 原則、支援金額に含まれる設計 | 映画、アート、文化、地域プロジェクト | 中 | 手数料は比較的低いが、医療機関向けというより文化・クリエイティブ色が強い。病院案件ではテーマ設計が重要。 |
病院・医療機関がクラウドファンディングを行う場合、候補になるのは主にREADYFOR、CAMPFIRE、CAMPFIRE for Social Good、For Goodあたりです。
特に医療機関としての実績や信頼感を重視するならREADYFORは有力です。一方で、支援金の手取り額を重視するなら、実行者側の手数料負担がないCAMPFIRE for Social GoodやFor Goodも選択肢になります。
ただし、実行者側の手数料が安いサービスほど、支援者側に手数料や協力費が上乗せされる場合があります。
そのため、単純に「手数料が安いサービスがよい」とは言い切れません。
病院クラウドファンディングでは、
どれだけ手元に残るか
だけでなく、
支援者が納得して支援しやすいか
医療機関として信頼感を損なわないか
プロジェクトの公益性をきちんと伝えられるか
まで含めて選ぶ必要があります。
まとめ
病院のクラウドファンディングは、もはや一部の例外ではありません。
医療機関によるクラウドファンディングは増えており、実際に億単位の支援を集めた事例も出ています。
ただし、これは明るい話だけではありません。
裏を返せば、地域医療を支える病院が、診療報酬や公的予算だけでは設備更新や災害対応に十分な資金を回しにくくなっているということでもあります。
クラウドファンディングは、病院にとって資金調達の手段であると同時に、地域へ課題を説明する広報手段でもあります。
成功するかどうかは、「お金が足りません」と訴えることではなく、
「この医療を地域に残すために、なぜ今この支援が必要なのか」
を具体的に伝えられるかどうかです。
病院のクラウドファンディングは、医療崩壊を防ぐ魔法の杖ではありません。
しかし、地域医療を地域で支えるという意識を作るきっかけにはなります。
これからの病院経営では、医療の中身だけでなく、地域に対して「なぜこの病院が必要なのか」を伝える力も問われていくはずです。

