心不全の評価に重要なバイオマーカーで”脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP/NT-proBNP)”は心不全以外にも年齢、腎機能、全身炎症によって上昇してくることが知られています。
BNP/NT-proBNPと腎機能の関連については、国内外問わず多数の論文投稿がされており
その知見については情報の収集が容易ですが、年齢との関係について投稿された論文は多くありません。
そこで、今回はBNP/NT-proBNPと年齢の関係について評価した論文を2つ紹介し、
それらの見解について本記事にまとめたいと思います。
今回ご紹介する論文
①Influence of age on natriuretic peptides in patients with chronic heart failure: a comparison between ANP/NT-ANP and BNP/NT-proBNP
Eur J Heart Fail. 2005 Jan;7(1):81-6. doi: 10.1016/j.ejheart.2004.03.014.
【要旨】
慢性心不全患者におけるANP/NT-ANPおよびBNP/NT-proBNPの血漿中濃度に対する年齢および性別の影響を比較した。
各バイオマーカーは年齢と有意に相関しており、ANP、NT-ANP、BNP、NT-proBNPの年齢との相関係数はそれぞれ0.18、0.29、0.28、0.25であった。
慢性心不全患者では、ANP/NT-ANPよりもBNP/NT-proBNPの方が年齢との関連が高く、NT-proBNPよりもBNPの方が年齢との関連が高かった。
しかし、これらの慢性心不全患者では、年齢以外の因子も各バイオマーカーレベルに影響を及ぼしており、年齢との相関関係は控えめであった。
②The influence of age, sex and other variables on the plasma level of N-terminal pro brain natriuretic peptide in a large sample of the general population
Heart. 2003 Jul;89(7):745-51. doi: 10.1136/heart.89.7.745.
【要旨】
血漿中NT-proBNPの測定値に影響を及ぼす交絡因子について調査を行った。
本件研究では、呼吸困難、弁膜症、心拍数、左室駆出率の低下、腎機能、心電図異常、年齢、性別がNT-proBNPの測定値に影響を及ぼす交絡因子として同定された。
正常者に限ると性差と年齢が有意な交絡因子として同定された。
結論、血漿中NT-proBNPは単一のカットオフ値では不十分であることが示唆された。
BNP/NT-proBNPと年齢の関係
慢性心不全患者における年齢・性別との関係
年齢との関係における相関係数は、ANP、NT-ANP、BNPおよびNT-proBNPについて、それぞれ0.18、0.29、0.28および0.25であった
ANP/NT-ANPとBNP/NT-proBNPの間の年齢依存性を直接比較するために、母集団を四分位に分けた。その結果、lnBNPの相対的増加はlnANPの相対的増加よりも有意に大きく、lnNT-ANPの相対的増加はlnNT-ANPの相対的増加よりも有意に大きかった。また、lnANPとlnNT-ANP、lnBNPとlnNT-proBNPを直接比較した。lnANPとlnNT-ANPの加齢に伴う相対的な増加は同様であった。しかし、年齢によるlnBNPの相対的な増加は、年齢によるlnNT-proBNPの相対的な増加よりも有意に大きかった。
(文献①より引用)
正常者における年齢・性別との関係
「正常」と定義された被験者における、異なる年齢および性別グループにおけるNT-proBNPの血漿中濃度。横棒は幾何学的平均濃度を示す。
健常者の定義:うっ血性心不全なし、虚血性心疾患なし、高血圧症の既往なし、糖尿病なし、肺疾患なし、循環器系薬剤治療なし、左室駆出率60%以上、血圧<140/90mmHg、心電図正常。
(文献②より引用)
NT-proBNPは正常異常に関わらず、年齢が10歳を超えるごとにおよそ2倍に増加した。
BNPは正常異常に関わらず、年齢が10歳を超えるごとにおよそ1.4倍に増加した。
このことは、加齢に伴う心筋量の増加、心室特異的な遺伝子発現の変化、腎機能の低下を反映していると考えられる。
まとめ
今回の記事では、心不全の評価に重要なバイオマーカーである脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP/NT-proBNP)と年齢の関係について、2つの論文の内容をご紹介しました。
- 全対象群(正常・異常含む)において、BNP,NT-proBNPは年齢が高くなるにつれて、ベースライン値の上昇(10歳毎にBNPは1.4倍、NT-proBNPは2倍)を認めた。
- 慢性心不全患者の年齢によるBNPの相対的な増加は、年齢によるNT-proBNPの相対的な増加よりも有意に大きかった。
- 但し、慢性心不全患者のBNP/NT-proBNPレベルは年齢以外にも様々な交絡因子の影響を受けると考えられるため、相関関係はそこまで強くなかった。
BNP/NT-proBNPともに加齢によりベースラインが上昇します。
これは
- 加齢に伴う心筋量の増加
- 心室特異的な遺伝子発現の変化
- 腎機能の低下
を反映していると考えられており、そもそものBNP/NT-proBNPの分泌量が増加していることが原因のようです。
興味深いことに、慢性心不全患者に限るとその影響はNT-proBNPよりBNPの方が強いという結果でした。
母集団の違いが結果に影響を与える可能性も十分考えられますが、一知見としての情報をお伝えいたしました。
今回ご紹介した内容が少しでも皆さんのお役に立てば幸いです。